お待たせしました。第2回目のコラムは、翻訳人としてご活躍されている 矢口悟氏に、アメリカで発売された<時の車輪>のサントラCDについて解説して頂きました。

 

 
  ★バックナンバー
第1回  訳者から一言 斉藤伯好氏
 

アメリカで〈時の車輪〉のサントラ発売
矢口 悟
〈時の車輪〉サウンドトラック
A Soundtrack for the Wheel of Time

Magna Carta:MAX-9052-2(輸入盤・アメリカ)
作曲・演奏・プロデュース=ロバート・ベリー
ジャケット画=ダレル・K・スウィート(原作の表紙を描いている人です)

●概説
サウンドトラックとありますが、実際に〈時の車輪〉が映像化されたわけではないので、イメージアルバムといったところでしょうか(コミックやヤングアダルト小説でおなじみのメディアミックス手法ですね――ちなみに、最近ではドラマCD≠ニいうのもありますが、本作はあくまでも楽曲のみを収録したものです)。まずは、収録曲のタイトルと、その一部についての簡単な説明から。カッコ内はジャケット表記のトラック・タイムです。

1/A Theme for the Wheel of Time(3:35)
  シリーズ自体のメイン・テーマ。アイリッシュの香りを感じさせるイントロにつづいて、歌が始まります。どことなく広漠とした曲調は、小説の冒頭部を読み始めたときの気分に共通するもので、このCDに対する期待感を盛り上げます。
2/Return to Emonds Field(3:55)
3/Song for Moiraine(3:34)
  Songという題ながら、インスト曲です。前半はモイレインの蔭のあるキャラクターを静かに描き、後半は同じモチーフで彼女の行動力を示す展開に一変します。
4/Traveling the Ways(3:05)
5/Spears ahd Buckler(1:22)
6/Dream Walker(2:04)
7/The Knowledge of the Wise Ones(1:09)
8/The Winespring Reel(4:32)
  酒の席の一場面ということで、快活でアップテンポな曲になっています。ちなみに、reelは千鳥足≠フ意味ですが、もちろん、演奏はしっかりとしています。
9/The Halls of Tar Valon(0:57)
10/Search for the Black Ajah(5:06)
11/Ladies of the Tower(3:12)
  抑制された妖しさと迫力をかねそなえた女性ヴォーカルで、異能者たちの矜持を歌っています。
12/The Game of Houses(3:44)
13/Voyage of the Sea Folk(3:45)
  静〜動〜静〜動と展開する曲は、船の走り具合を表現しているのでしょうか。途中、風を感じさせるバグパイプ調の音色のちょっとしたフレーズがアクセントになっています。
14/Heart of the Wolf(1:09)
15/Journey through the Waste(0:57)
16/Lan the Warder(1:16)
17/March of the Trollocs(3:15)
18/Rand's Theme〔Fanfare for the Dragon Reborn〕(4:31)
  多大な懊悩や不安をかかえることになった主人公の心境を感じさせる前半の哀愁に満ちた曲調から、一瞬、沸き立つようなファンファーレが響き、王者としての決断と行動を示すかのような重厚な通奏低音へと移行していきます。
19/The Aiel Approach〔Dahl of a Chant〕(2:10)
  呪文のような詞と旋律がアンビエントに交錯していく、民族音楽としての雰囲気をたたえたコーラスです。

全体的にミドルテンポの曲が多いのは、原作の重厚長大な構成によるものですが、効果音などを使うことで、案外、メリハリはしっかりとしています――ランダムに聴いても各曲の特徴はきわだっています。曲のタイトルからも判るとおり、物語中の一過的なイヴェントに焦点を当てるのではなく、通貫するテーマや人物and/or集団や舞台を題材にしているため、第何部のどの場面≠ニいう枠にこだわらずに聴くことができます(私見としては、これらのほかにも収録してもらいたい題材がないわけではないとはいえ……たとえば、トム・メリリン、ランフィア、モーデス、etc.)。一般に、小説を読んだときに喚起される映像や音響の心象は個人差が大きいもので、「こんなものじゃない」という感想を耳にすることも少なくないのですが、このサウンドトラックについては、〈時の車輪〉のファンであれば必聴だと思います。ひきつづき、第二弾を期待しましょう。

●ロバート・ベリーについて
1980年代にハッシュというプログレッシヴ・ロック・バンドを経て、スティーヴ・ハウ(現イエスのギタリスト)やキース・エマーソン&カール・パーマー(もちろん、EL&Pのキーボーディスト&ドラマー)などと共演するようになった人物です。また、マルチ・ミュージシャンとして、単独での多重録音も多く、1995年に発表されたピンク・フロイドやイエスへのトリビュート・アルバムにも名前を見ることができます。そのマルチぶりは今回のサウンドトラックでも存分に発揮されており、一部の曲が共作となっている以外は彼の単独クレジットですし、演奏およびヴォーカルもほとんど全般を当人がこなしています。

●マグナ・カルタについて
1980年代のヘヴィメタル隆盛期に技巧系ギタリストを幾人も発掘したマイク・ヴァーニーが、90年代に入り、自分が昔から好きだったジャンルであるプログレッシヴ・ロックの隆盛を望んで設立したレーベルです。マジェランやシャドウ・ギャラリーやダリズ・ディレンマやアイス・エイジといった新世代プログレッシヴ・バンドを紹介するとともに、そのジャンルの先駆者であるドリーム・シアターのメンバーを主体にしたリキッド・テンション・エクスペリメントなどのプロジェクトを多極的に展開させています――その成果がドリーム・シアター自体のさらなる発展にフィードバックされ、『シーンズ・フロム・ア・メモリー』という壮大なコンセプト・アルバムの結実につながったりもしました。今回の〈時の車輪〉サウンドトラックとならんで、レオナルド・ダ・ヴィンチの生涯をつづったロック・オペラ・アルバムも発売中です(そちらにもロバート・ベリーが参加していますし、本作の11で歌っているリサ・ブシェルがモナ・リザを演じています)。

●入手方法
Tor Books 刊の原書、ペーパーバック版の第9巻(邦訳でいけば第九部ということですね)の最終ページにこのCDの広告が掲載されていたので、輸入盤をあつかうCDショップを訪ねてみたところ、御茶ノ水にある〈ディスクユニオン〉ヘヴィメタル/ハードロック館の4F=プログレ・コーナーで探してもらうことができました。正直なところ、この種の音楽を好むファン層と〈時の車輪〉の読者層にどれほどの接点があるか判りませんし、大量に輸入されているわけではないのではないかと思います。実際、その店でパッケージに貼付してあった紹介文にもネイティヴ・アメリカンの物語≠ニ書かれており、こちらとしては、心の中で「そうじゃないんだけどなぁ」とつぶやいてしまったものです。やはり、国内盤がリリースされるような方向へもっていくほうが、双方のジャンルにとって幸せというものではないでしょうか。ありがたいことに、日本のマーキー・インコーポレイティドというレコード会社がマグナ・カルタと提携しており、アヴァロンというレーベル名で多数の作品を発売しています。そんなわけで、そちらから国内盤を出していただけるよう、大勢の読者の力ではたらきかけてみませんか? ライナーノーツの執筆には難波弘之氏あたりを起用するとともに、国内盤オリジナルで加藤俊章氏の絵を併載したダブル・ジャケット仕様というのも考えられるでしょう(SFマガジンの音楽SF特集≠フ延長版になってしまいそうですが……)。

≫ページトップへ

Copyright(C) Hayakawa Publishing,Inc. All Rights Reserved.
produce & design by japancontents